レコードで聴く「露営の歌」
「露営の歌」 1937年(昭和12年) コロンビアレコードから発表された戦時歌謡。
「軍歌」のことを「戦時歌謡」と言われる方が最近では多いようだ。
そのことについては文末で書くこととして、
「露営の歌」について
「露営」とは野外の陣営、野営のことを言う。
近年はレコードを聴くようになって、そのことを人に話すと古いレコードをいただくことが多くなった。
自宅に眠っているレコードだがもう聴こうにもレコードを聴くための機器が手元にない、ということが多い。
CDの出現によってその音のクリアさにレコードを多くの人が聴くのをやめてしまった。
でも、今はその魅力でレコード愛好が再燃している。針を落として聴くことのワクワク感や独特の音に「ああ、新鮮・・・・荒削りで尚且つまろやか」などと思うCD以降に生まれた人たち。
懐かしさに「ああ、やっぱりいいねえ」と思う人たち。
いただいたレコードの中には戦争のあった時代の歌謡曲や軍歌が多く、かなりの確率で「露営の歌」が入っている。
「かってくるぞといさましく~」という出だししか私は知らなかった。
「きさまと俺とはー同期の桜~」というのと「包丁一本さらしにまいて」とか、ジャンルはかなり違うが「フランシーヌの場合は、あまりに~もおばかさん」なども含めて小学生のころはこの短いフレーズを歌ってはみんなでなんとなく盛り上がっていたように思う。
ドリフで流行った曲もあったと思う。「だーれかさんとだーれかさんが・・・」とか、「ババンババンバンバンアービバノンノン」とか
それは昭和40年代の終わり頃のどこにでもある一般的な子供の世界。そのうちに歌謡曲全盛になり、流行りの歌をみんなで歌い、洋楽と邦楽に好みが分かれていき・・・・・と。
話がそれてしまったが、それではその時代(昭和の戦後すぐ)のレコードに入っていることが多い「露営の歌」だが、実はこの曲は「B面」だった。A面は「進軍の歌」である。
A面「進軍の歌」とB面「露営の歌」の違い
「露営の歌」を作詞したのは藪内喜一郎。懸賞募集の第一等が「進軍の歌」で第二等が「露営の歌」だった。
昭和12年の日中戦争開戦以後、レコード会社は政府や軍の指導でおびただしい数の「軍国歌謡」や「大陸調歌謡曲」を作った。
その中で大衆に好まれて歌われた歌にはかならず「悲壮感」というものがあったそう。
あるいは、戦地に追いやられた者の肉親や愛する人に対する気持ちを歌う歌が好まれ。戦争を礼讃するような歌は作られても大衆からは好まれなかったとある。
(参考文献:時事通信社 「歌の昭和史」加太こうじ 著書より)
この曲が作られた1937年、日中戦争が勃発。毎日新聞が戦意高揚のために「進軍の歌」の歌詞を公募(公募のものは結構ある)
藪内喜一郎の作品が「傑作」に入選して、それを「露営の歌」として古関裕而が作曲を担当。
古関裕而のすごいところは満州を旅行していて帰途で見かけたこの新聞で発表された歌詞を見て依頼がないのに作曲をしたそうだ。
東京に着いた時に作曲を依頼された時に「それならもうできている」と楽譜を差し出したとうエピソードが書かれている。これはNHKの朝ドラ「エール」の第15週「先生のうた」でも描かれていた。
プロデューサーの高飛車な態度が「露営の歌」の大ヒットによって大きく変化するのが面白く描かれている。
「露営の歌」はB面なのにA面より人気があったそうだ。
それはなぜか?
それは「進軍の歌」が「雲湧き上がるこの朝(あした)、旭日のもと・・・・」という勇壮一点張りの歌であるのに対して「露営の歌」が悲壮感の強さが大衆の心をとらえたようで、多くの人に愛唱された。
「エール」では「露営の歌」は「佐藤久志」で録音、とあるが実際に最初に録音して発売されたのは 「霧島昇、伊藤久男、松平晃、中野忠晴、佐々木章」の5名で歌ったものであった。
明治末から社会主義詩人として知られていた「児玉花外」、ロマン派の詩人として知られた「与謝野鉄幹」「北原白秋」も軍国歌謡や軍歌を作り、「進軍の歌」や「爆弾三勇士」「ハワイ大海戦」「愛国行進曲」など、詩人たちは時流に妥協(せざるを得なかった)し、国粋主義や軍国主義のみを高らかに歌う歌ができたが、大衆は「悲壮感が強い歌」を好んだ。
「父よあなたは強かった」や「出征兵士を送る歌」などが好まれた。
「軍歌」「軍国歌謡」「戦時歌謡」とは?
「軍歌」と一括りにしないで色々な呼び方やちょっとした内容の違いがあるようなのでいくつか記しておく。
「軍国歌謡」この名称はあとからつけられたもので、昭和12年の末頃から軍国調のレコードを出す会社の歌は「流行歌」というレッテルで売られた。「歌謡曲」という名称も当時はなかった。
「軍国歌謡」は「軍歌」とは違うそうで、その違いを説明すると
「軍歌」というものは「軍隊」によって作られたものもあれば「兵隊たちの間で自然に歌い出されたものもある。
「軍国歌謡」は歌謡曲の一種としてレコード 会社が営業上作り出したもので「軍歌」とくらべるとやや俗っぽさがあり、勇壮さなどでおもむきが異なるとされている。浪花節的なメロディーや民謡のようなものも西欧のようなものもある。
現在は「戦時歌謡」と言われる場合が多いと感じる。
参考文献:時事通信社 「歌の昭和史」加太こうじ